三橋節子美術館
大津市の緑溢れる長良公園の一角にあるこの美術館を初めて訪れた。 画家の名前や画業はテレビや雑誌で見たことがあったが、詳しくは知らなかった。 彼女のほうが数年年上ではあるが、仕事をしながら子どもを育て、同じ時代を生きてきたとの思いがあった。画廊のような小さな美術館は空いていてゆっくり鑑賞できた。 幸せな生活が病気によって一変し、大事な利き腕を奪われることになるが、負けてはいない。絵筆を左手に持ち替えて絵を描き続ける。命に限りがあることがわかってからの優しく暖かく力強い絵には心を打たれる。35歳で亡くなる7時間前に書かれたという幼いわが子に宛てたはがきは胸をえぐられるように切ない。生きて50年も60年も愛をやりとりできる幸せな母子もいるというのに、こんなに短い間で別れなければならなかった母子の理不尽な残念無念さに私は泣いた。遺言のように描かれたわが子を主人公にした絵本には強く生きてという母の願いがあふれていた。 近江琵琶湖の自然や民話を題材にした作品はどれもすばらしいが、「三井の晩鐘」は愛するわが子と別れなければならない龍の伝説と画家自身の運命が重なり、観る者を圧倒し深い感動の中に引き込む。 おさえた色調の中で着物の朱い色が印象に残った。 2012年8月30日
記 内泉 早苗 |
「三井の晩鐘」(昭和48年) |
三橋節子美術館 |