とんがり帽子の旅人が中世の建物や暮らしの残る田舎町を旅をする。
俯瞰で描かれた繊細な線画と柔らかな色調に魅せられて、何度も繰り返し読んだ(見た)「旅の絵本」は私の愛読書である。
津和野にある安野光雅の美術館に行ってみたいとずっと思っていた。
酒蔵のような美しい建物の中の展示室は、広々としていてゆっくり絵を鑑賞できる。第一展示室は「絵本 仮手本忠臣蔵」だった。役者の衣装、動き、筋書きが繊細に描かれていて、さながら歌舞伎の舞台を見ているようだった。
他の展示室には海外の国々の風景、絵本の原画などが展示されていた。
安野光雅はマルチスパーマンで、科学、数学、文学など豊かな知識を色んな分野の絵本に著している。その想像力と独創性にあふれた作品は子どもだけのものではない。おとなも古き良き時代を懐かしみ、未来への夢を育み楽しむために、彼の絵本を開く。
美術館の中には、木造教室や図書館、ぴかぴかに磨き上げられた板の廊下、それにプラネタリームもある。黒い窓枠の向こうに白い漆喰の壁と青い空、手元に開いた安野の絵本。広いロビーではゆったりした時間が流れていく。
立ち去りがたくもあったが、十年来の願いが叶った満足感でいっぱいだった。
2012/10/03
内泉 早苗
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