“こんなおもちゃが早く見つかればよかった” 妹の夫はヘビースモーカーだった。「嫌煙権」なんて権利はないと、うそぶいて世の中の風潮に逆らうように煙草を止めなかった。 果たしてその結果は「喉頭癌」として表れた。 手術は成功して元気になった。 しかし声は永遠に失われてしまった。 話をするのが大好きでいつも一席ぶつような話し方で喋り捲っていたのに。 メモ用紙とペンをおき、自分の言いたいことを書いていく、言いたいことがたくさんありすぎて、字は乱雑になるし意味は取れにくい。それでも彼は一生懸命自分の意思を伝えようとして書きなぐる。痛ましくて見ていられなかった。 やがて「癌」が再発し入院した。 病院でも妹は割合聞き取れていたようだったが。 私は30センチ四方くらいの板目紙に50音と濁点、半濁点の記号などを書き込んだものを作って持っていったが、どのくらい役に立ったか、間もなく帰らぬ人となってしまった。 亡くなって1年ほどしたとき、私はおもちゃ売り場で、私の作ったような形のおもちゃがあり、文字を押すとその音が出るのが売られているのをみつけた。 私はああこれがあのとき、あったらと今でも買いたいような気持ちでいつまでも眺めていた。
2016年3月3日 文責 牧戸 富貴子
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