" 取り違え ”
6期 谷口 啓治 「(製薬会社の)××△△また不適切試験」という新聞の活字が目に飛び込んできた。 よく読んでみると、'09年に子会社が新薬承認をめぐって試験データを改残ざんしており、いわば重犯的である。 筆者が気になったのは、対象になっている薬が閉塞性動脈硬化症などの手術や治療に使われる代表的な薬であるという点で、類似の疾病のために三種類の薬を処方されているから"進行すれば要注意だな"と思ったことと、問題の子会社が栃木県足利市にあるという事からである。 問題は、「取り違え」でなく作為が感じられて重大であり、当然厳しく処置されるだろう。 製薬業界の汚点の氷山の一角でないことを祈られずにはおられない。 同じ朝刊に、別の製薬会社の「違う薬が箱に混入」とあり、100万錠を回収するという記事を見た。 記事の、(間違えたふたつの)錠剤は、色と形とが違っていて「見分けはすぐにつくという」くだりには、そんじゃ何故混入したのか?と言う素朴な疑問と、現役時代の「取り違え」を思い出してニヤ付いた。 その1、小山での鋳物製品; アルミの金型鋳物で、シーズヒーターを鋳包んだ家庭用のアイロンの底板 (ソールプレート)を、M社のものをH社品と間違えて納入するというチョンボ。 その2、同 押し出し製品; 既に引退した国産旅客機用の型材を材質違いでつくった。 朧げな記憶で、しかもまた聞きであるが、出荷前に気がついて大事に至らなかった。(注イ) その3、日光のAL板; 飲料用缶に使われるAL板をコイルに巻いて納入していたが、材質違いが納入後に分って大騒ぎになったことがあった。 注イ;太平洋戦争後初めて作られた国産の旅客機・YS-11で、`62年8月初飛行。 営業運用は、`65年3月〜`06年9月(国内)。182機が生産された由である。 クスリ業界の事情には疎いが、筆者がお世話になった軽金属の素材産業について言えば、「取り違え」の背景には以下のごとき事情がある。 先ず、その1の場合 鋳物製品は、形状が夫々違っているし、顧客別の固有の識別文字が鋳出しされているので、担当者がボケっとしていたとしか考えられない。 押し出し品や板・条などは、ALを鋳造して作った原始素材の外観が極めて類似的であり、気を付ける必要が大いにある。 押し出し品の素材は、ビレットと呼ばれ、丸い柱状をしていて直径が違う(と言っても何種類かに分れているだけ)ぐらいの差別。 板の原始素材はスラブと呼ばれ、羊羹状であるが これまた幅、厚さ、長さに差別があるだけ。ビレット、スラブ共に材質別に差を付けるほど形状差は準備されていない。 個別管理は、ビレットを所望の長さに切断したところで前後端に刻印するが、押し出してしまえば、大方が断面形状で判別できる。 従って、ビレットの刻印の見誤りか何かで、材質の「取り違え」が起きたものと思われる。 板製品はもっと難しい。スラブの表面にペンキで材質名を書くが、板に圧延する最初の加熱圧延(火延べ)が終わって常温のコイルになるまでが要注意。その後は、マスターカードと呼ばれる圧延工程順に要点を記したマニフェストが付けられる。 ところが、マスターカードはコイル芯に挿してあるだけで、移動中に落っこちて入れ直されることや、作業者が必要なコイルを探していて抜き出して読み、元へ戻す際に間違えることがある。 など、やや独善的な言い訳になろうか。 余り良い思い出でない上に、一部には思い出されて「ぎくっ」と心の臓に来る方がおられそうなので オブラートに包んだがその分だけ迫力に欠けるオハナシである。 最後に体験的「取り違え」の例; 大手の病院で、Dr.Bushがカルテを間違えて問診を始められ、患者たる筆者が「違ってる」と言うまで「取り違え」に気ずかなかったことがある。 恐ろしや! 農閑期の夜の駄文 1月26日夜 |