かおる会 会員便り
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内燃機関 第6巻 第12号 「巻頭言」はスキャナで読めませんのでリ・タイプしたものです。出来るだけ原文に近く努力いたしました。
現在の企業経営においても重要な事項と思います。

武智馨先生と石川中將早大教授
(その4 巻頭言)

3期  畑 宏樹       

巻頭言
“生産拡充の科学的解決”

豫備海軍造機中將早稲田大學教授
   工学博士 石川登喜治  

 現今超非常時局に際し兵器船舶及諸機械等総て破天荒の増産を必要とし対策も色々建てられ従業員の士気昂揚に依る能率向上等も八釜敷く唱道されて居る。然しながら我々は現在の状態のその儘にして能率を上げる位のことにては到底満足は出来ない。資材豊富にして生産力我に数十倍するといはれる米英を相手に戦いつゝあることを思えば更に格段の創意と工夫を鐃らねばならぬ。我々は従来の慣習にとらわれず更に根本的の検討をなす可きと考へて茲に卑見を述べることにした。
 生産拡充の要素は勿論物的及人的資源の豊富とその適切なる運用である故に資材の獲得には最大の努力を盡くさねばならぬが我国は地理上の関係にて現在は非常に困難である故に最小の資材を以て最大の生産を工夫せねばならぬ。この達成には次記の技術的手段が考へられる。
(1)創意発明に成る製品の革新。
(2)創意発明に成る優秀材料の適用。
(3)現在製品の設計改良。
(4)現在材料の改良と其の適用。
(5)製造加工の簡単化。
(6)従業員各自の技術向上と集団作業能力の発揚に対する画期的工夫。
 (1)と(2)は最も大切である。例えばピストン式蒸気機関が全く変わった型式のタルビン蒸気機関になった為に同じ重量にて数倍の馬力を出し快速巨船の出現となり又軽量大馬力のガソリン機関の発達によって大型航空機の登場となり今次戦争に重大の役割をなしていることを思えば創意発明に依る製品の革新が如何に重大であるかが痛感された。 この製品の革新には必ず優秀材料が適用されて居る。即ちタルビン機関には強靱なる特殊鋼や堅實なる鋳物が適用され、又航空機には超ジュラルミン等の如き創意発明になる幾多の優秀材料が適用されている。斯の如く設計と材料の革新に依らざれば到底数倍の資材節約と生産増加はあり得ない。故に設計の革新と 優秀材料の創造とは一日も忽にしてはならない。
然しながら之等の実現には多大の実験研究と相当の時日を要するので稍もすれば現在要求の生産拡充とは背に腹は替えられぬとして等閑に附せられるは誠に遺憾に堪へない、蒸気タルビンが瓦斯タルビンになるとか内燃機関が火薬機関になるとか云う如き事が敵国によって発明創造されたと仮定すれば破天荒の速力を有する水上鑑や潜水艦又航空機の出現となり恐しき結果を来すことは想像に難くない。
之等の研究に力を入れることは現在にては肉を割くの苦みはあるが完勝の為にはこの貴き種は播かねば実は結ばぬことを悟るべきではあるまいか。
 (3)と(4)は既に夫々充分研究されて居ると信ずるも従来の観念を捨て検討の必要あると考える。
航空機の如く最新のものはその要がないしても、一般機械の如きは材料の貧弱なりし時代の設計も相当あると考えられる。
最近の鋼材も鋳物も格段の進歩を来して居るので、之等優秀材料の適用と設計の改良をなさば相当の重量を節約し得ることは水道鉄管に遠心鋳造高級鋳鉄管を採用した為に重量が半減した実例を見ても明らかである。
鋳物も形状寸法と材料を改善すれば従来世人の考える様な危ないものではないことも充分認識してもう一度見直すと同時に設計に適する強靱鋳物の製出に努力すべきである。
之等の点が充分検討されることによって多大の生産増加と資材節約が出来るでないかと思ふ。
この問題の解決が又生産拡充の根本解決となるものと信ずる。
 (5)の製造加工の簡単化は優秀なる鋳物を以て鍛造品に代へ資材の節約と機械加工の逓減を計るべきである。
殊に近来は特殊鋳鐵や特殊鋳鋼の出現により充分強靱なる鋳物を造り得る。
特殊鋳鋼の如きは同材質の鍛造品よりも強靱にして抗張力、伸は勿論疲労限も決して劣らぬのみか振動に対しても却て強く抗応力の方向姓がない為に複雑なる応力には鍛造に優ると云うので、独逸にては重要なる兵器にさえ之を重用することである。
之等の利用には従来の鋳物に対する観念を改めて再検討し製造加工の簡単化と資材の節約を計るは又生産拡充の根本解決と信ずる。
 (6)は非常に大切なる事柄なるも各位が最善の努力を沸つて居られるので茲に割愛する。
以上論じたる如き現在の根本問題の科学的解決によって資材の確保も増進し益々生産拡大をなし大東亜戦の完遂に励進せんことを熱望して筆を擱く。

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